7月のとある昼下がり、私は知り合いから黒部峡谷にある下ノ廊下の話を聞いてものすごく興味をそそられていた。
「日本にこんなところがあるのか!ってきっと驚くと思うよ」
しかもそこへ行ける時期は秋、期間もその年によりバラバラで、いけない年もあるという。
これは是非行ってみたい!
山は時々歩くものの、地図が読めない上に恐ろしいほどの方向音痴ということもあって、今まで地図がなくても登れるような山しか登ったことがなかった。
一人で行くのは不安もあるから、誰かに連れて行ってもらおう!
そんなことを考えていた時に、ちょうど北アルプスと南アルプスの登山から戻ってきたばかりという2人(恐妻家男子とパパスノーさん)に会ったので聞いてみた。
「黒部の辺りで断崖絶壁の凄いところを歩けるコースがあるらしいんだけど、知ってる?」
「下ノ廊下だよね、知ってるよ」
どうやら本格的な登山をする者は当然のように知っているようだった。
そして2人共がいつしか行きたいと思っていたことを知り、
「それじゃあ行こうよ!計画立てて~」とお願いしたのだった。
それから10月に入って突然、恐妻家男子から
「家庭内渉外が通ったので10月末に下ノ廊下に行くことにしたのだけど、来る?」というメールが届いた。
私は「行く~♪」と即答したのだった。
当然ながらパパスノーさんにも声をかけたのだが、ちょうど股関節を痛めていてエスケープルートがないため、行けるかどうかは直前にならないと分からないという。
下ノ廊下を車で行く場合は車を回送してもらう必要があり、その金額がバカにならない。
パパスノーさんが来れなくなると割高になってしまう。
少しでも安く上げたいし、大勢の方が楽しいだろうということで、互いに興味を持ちそうな人に声をかけた。
すでに予定が入っていたり、腰痛が酷くて行けそうにないという返事ばかりだ。
そんな中、洞窟仲間のcaveAが来れることになり、とりあえず3人確保出来たのでこのメンバーで行くことにしたのだった。
下ノ廊下前日は鬼軍曹が企画する洞窟探検の体験会に行くため、伊勢にいた。
前回の体験会で散々な目にあったはずのマゾな人達がもう一度行きたい!と言ってまた企画したようだった。
前回の体験会の様子はこちら↓↓↓
前回来たマゾ達はもれなく全員、更に人が増えてトータル10名の大所帯だった(今回の体験会動画はありませんが、ユーコンカワイさんがブログを書いているのでそちらをどうぞ)
体験会も無事に終わり、山を下りて携帯の電波が入ると、恐妻家男子から一通のメールが届いていた。
「ごめん、家庭の事情で行けなくなった」
パパスノーさんも体調に不安があるので今回は諦めると言われたばかりだ。
完全に恐妻家男子に任せてしまっていて、今回は何も調べていなかった。
caveAもまた恐妻家男子に任せていたので何も調べていないという。
さらに私は待ち合わせの一宮まで車を走らせなければならず、調べるヒマもない。
それにcaveAは免許を持っておらず、2人で行くとなると行きも帰りも私が全て運転することになる。
運転交代要員がいると思って安心しきっていただけに焦った。
今回は残念だけど、諦めた方がいいか・・・
洞窟でドロドロになった体を温泉で洗い流したあと、広間でみんなと談笑している時に
「明日の黒部、恐妻家男子がドタキャンして私が一人で運転していかなきゃいけなくなったんですよ><」と焦りを露わにしていると
「じゃあ俺、行こうかな。明日も明後日も休みだし」とテスリンYさんが言い放った。
聞けば下ノ廊下へは10年前から行きたいと思っていて、準備をしていたらしい。
ところがなかなか行くチャンスがなく、去年に至っては1ヶ月に3連休を2回とったにも関わらずその2回とも台風が来てやむなく中止にしたという。
「それなら行きましょ!行きましょ!決定~♪」
ということで急遽一人増え、なんとか3人で行けることとなったのだった。
伊勢から急いで名古屋に帰って準備をするテスリンYさんを追いかけ、途中caveAをピックアップしてから自宅まで迎えに行った。
深夜12時過ぎに出発、少し寝不足気味だった私は最初に寝させてもらうことにしたのだが、気がつけば車の回送業者の駐車場に到着していた。
午前4時前。駐車場で3人、朝6時まで仮眠をとった。
回送業者に合鍵を渡し、送迎車に乗ってトロリーバスの出発駅、扇沢駅まで送ってもらった。
ドライバーさんの話によると下ノ廊下では熊が出るらしく、鈴は持って行った方が良いという。
当然ながら持ってきていない。
その代わり、万が一のためにスワミベルトとスリングにカラビナを用意していたのだが、これは要らないという。
完全に準備ミスだ。
ただしスリングにカラビナは後に写真撮影や人とすれ違う時に役に立ったので、持って行った方がいいと思う。
3人とも初めての下ノ廊下だという話をすると、
「毎年必ず滑落事故がありますよ。今年は4名の方が滑落してますね。2日目の下りで滑落して亡くなってる人もいます。気の緩みからでしょね、本当に気をつけてください」
恐らくヘリも来れなそうな深い峡谷(通称V字谷)で、滑落したらどうやって遺体を回収し、どうやって運ぶのだろう?
疑問に思った私は恐る恐る聞いてみた。
「いや、落ちたら下流まで流されるんですよ。下流で警察が遺体を回収します。時々どこかに引っかかって流れてこない場合もあるようですよ。そんな時は探すみたいだけど、見つからないことも多いみたいだね」
万が一滑落したら、せめて遺体だけは回収されますようにと祈って送迎車を後にした。
トロリーバスは電車のように電線につながっており、電気で走るシステムになっていて、日本でも珍しいのだという。
そんな電気バスも来年から変わるのだそうだ。
バスを降りると観光客は建物の中へ、登山者はトンネルをしばらく歩いて外に出た。
外に出ると、黒部は紅葉真っ盛りだった。
そこから山道をくだり、黒部川まで出た。
黒部川を対岸に渡る橋の手前で突然サイレンが鳴り出した。
ダムの放水で川の水が増水するから川から離れるようにとのことらしい。
橋を渡りきると巨大な建造物、黒部ダムの中腹から大量に水が放出されているのが見えた。
「今年の観光放水は終了しました」との張り紙を見ていたので残念に思っていたけど、普通の放水でも十分迫力があった。
その後も定期的にサイレンが鳴っては注意するようにとのアナウンスが聞こえた。
こんなところまでアナウンスが聞こえるなんて、と驚くほど下流まで聞こえていた。
青い空と美しい紅葉のコントラストに魅了され、互いに写真を撮り合いながらしばらく歩いていると、ついに断崖絶壁にコの字にえぐられたポイントまで来た。
全く下調べはしていなかったものの、画像だけは見ていたので想像はついていた。
でも実際に歩いてみると山のスケールの大きさ、豆粒に見える人の小ささに驚く。
川からはかなり高い位置にあるものの、高所が平気な私は「よくこんなところに道を作ったもんだ」と感心しながら歩いた。
ふと、カヤックをする私は「黒部川ってダウンリバーできないのかな?」と思い、川を覗き込み、瀬を観察した。
大小さまざまな岩にぶつかって白いしぶきをあげながら流れる水。
落差の大きな滝落ちのような瀬がいくつも連なる。
このセクションはかなりヤバそうだ。
今の私には自殺行為だと思い、そんな考えはすぐに忘れ去ることにした。
いつか下りたいという思いを残して。
時折ザックが壁面に当たって不意に谷側へ体を振られ、ドキッとする。
番線が張ってあるので、危なそうなポイントは番線を掴みながら歩いた。
滝あり、雪渓あり、吊り橋あり、ハシゴあり、トンネルありの大自然の絶景・絶叫アトラクションだ。
遊園地の絶叫マシーンなどのアトラクションでは全然絶叫できない私でも感動と興奮で終始大絶叫していた。
垂直に登るハシゴの前に来た時は、流石の私も一瞬、怯んだ。
ハシゴは太めの木で作られており、完全に掴むことはできない。
手すりはあるもののそれも太めの木だ。
カラビナが掛けられる番線もここにはなかった。
ハシゴは崖ぎりぎりに立っており、眼下には激流の黒部川が流れている。
手を滑らせて落ちれば絶対に助からないことは誰の目にも明白だった。
亡くなった方達はここで滑落したのだろうか。。。
要らぬ想像を膨らませ、一人焦る。
先頭を歩く私は躊躇したら余計に怖くなることを知っていたので、すぐに登った。
するとこんな時に限って、反対側から歩いてきた人たちが降りてきた。
落ちないように気をつけながらすれ違う。
下ノ廊下で一番恐怖を感じたポイントだった。
その後も定期的に現れるアトラクションを楽しみながら進んだ。
しばらくするとテスリンYさんが両膝が痛くなってきたという。
下ノ廊下はそのほとんどが水平だから、疲れるのは高所による精神的なものだけだと聞いていた。
だが実際は違った。
距離は短いもののアップダウンが結構あるのだ。
平地では大丈夫というテスリンYさんも、登り降りで膝の痛みが出てしまい、定期的に休息をとるようになっていた。
そのうち私も下りで左膝が痛くなり、caveAも右膝が痛くなってきたという。
やれ腰も痛くなってきただ、なんだと休憩中は老人の井戸端会議の様相を呈していた。
今夜の宿泊先は阿曽原温泉小屋の下のテン場で、テント泊の予定だった。
実は本格的な登山をしたことのない私は北アルプスも初めて、山小屋泊もしたことがなかった。
テントは持っていたものの、山岳用ではなかったため急遽購入。
出発の数日前に届いたものだった。
山小屋は定員100名、テン場は定員30名。
山小屋は予約できるものの、テン場は予約できないので早い者勝ちとなるらしく、急いで行かなければならなかった。
深い峡谷でGPSの入りも悪く、自分たちの位置を確認するのにしばらく時間を要したが、予定時間よりも大幅に遅れていることは明らかだった。
出来れば明るいうちに到着したい。
あと数キロで山小屋に着くという段になって、急な登りが始まった。
テスリンYさんは痛みに喘ぎながらなんとかよじ登っている。
見かねたcaveAが登りきったところに自分のザックを置いて、テスリンYさんのザックを担ぐためまた下山していった。
テン場が定員に達すると宿泊できなくなる。
「むぎママさん、とりあえず先に山小屋に行って受付を済ませてきてください」
caveA に促され、私だけ先に山小屋へ向かうことにした。
その先はしばらく平坦な道が続いたが、その後、急な下りが待ち構えていた。
急いで山小屋へ向かったものの、到着前に日が暮れてしまった。
へッドランプを取り出して歩き始めてすぐに山小屋に到着した。
山小屋に着くと大勢の人で賑わっていた。
見るとご年配の方たちばかりだ。
テン場は幸い空いているらしく、テントを張ることができそうだ。
山小屋は予約制で素泊まり7000円、食事付き10000円、テント泊は800円。
ここでは700円で天然温泉に入ることができる。
温泉は一つしかなく、1時間ごとに男女入れ替えとなり、午後8時以降は混浴になるという。
時計を見ると5時半だった。
6時からが女性の時間となるため、温泉に入るにはこの時間が最後のチャンスになる。
2人を迎えに行こうとも思ったが、どうしても疲れた体を温泉で癒したかった。
そんなわけで二人を放置して急いでテントを張り、温泉へ向かうことにした。
テン場はすでにかなりのテントが張られていて、あまりスペースがない。
3張りできそうなスペースは見当たらなかったので、テントとテントの間の1張りできそうな場所に張ることにした。
するとテントを張り始めてからすぐにcaveAが姿を見せた。
「早かったじゃん!」
すると降りてきたのはcaveAだけで、まだかなり上の方にいると思われるテスリンYさんを迎えに行くと行って、自分のザックを置いてまた山を登っていった。
「温泉の時間が6時からしかないから、先に入ってくるね!」と、ここでも迷うことなく温泉を取った。
テントを張り終え温泉の準備をしていると、不意に二人が目の前に現れた。
「思ってたより随分早かったね!」
テン場はすでにいっぱいで、張れるスペースは限られていたが、トイレの前に空きスペースを見つけた二人はそこに張るというので、その間に温泉に入りにいった。
温泉はかなり離れていて、歩いて降りていかなければならなかった。
到着してみると大きな湯船がひとつ、たくさんの女性たちで賑わっていた。
照明はないので、ヘッドライトで足下を照らしながら湯船に浸かる。
浸かってみるとちょうどいい湯加減で、疲れが一気に吹っ飛んだ。
長湯できる温度だったので、私はギリギリまで粘って約40分ほど浸かった。
ヘッドライトを消して夜空を見上げると、満点の星空だった。
天の川も見える。
暗くて見えないが、すぐ横は黒部川が流れている。
最高のロケーションだった。
持参したスマホに星が撮れるアプリを入れていたので、周りの女性に断りを得て湯船に浸かりながら撮ってみたのだが、湯けむりで全く写っていなかった。
テントに戻ってからもう一度チャレンジしてみよう。
やがて他の人たちは皆んな出ていき、1人貸切温泉を満喫した。
あまりゆっくりしていると男性陣が来てしまう。
温泉から出ると膝の痛みすっかり治り、軽快な足取りでテント場まで登って戻った。
(後半に続く)
詳しい動画はこちら↓↓↓
Naoさん、下の廊下、ハイキング、すごいですね。知ってはいて、色々、過去に動画を見ていたんですが、それらより、知らなかった部分も見れて、ドキドキしました。死亡事故が結構あるところで、私は高所恐怖症なのでいけないのですが、Naoさんはやっぱり、超アクティブ派ですよね。
全部の動画(そのまま、カットしないで)を披露したら、喜ぶ人(私も含め)一杯、いると思いますよ。追い撮りもされてるので(これが、一番、参考になる)すごく、いい動画になると思いますが。
下の廊下はやっぱり、貴重なルートだなア。
むぎちゃんを連れて、他の登山動画もアップしてくれると嬉しいです。(追い撮りで)
質問コーナーの動画もアップしてほしいなー。ちなみに私の質問は、(すごい、個人的てすが)、Naoさんの年齢と職業です。あと、むぎちゃんは完璧にトイレのしつけ、できてますか?
ロバーソン淳子さん、下ノ廊下をご存知でしたか!高所恐怖症の方は絶対に行っちゃダメなところですね^^;
動画ですが、流石に歩いてる時間が長いので撮りっぱなしにはしてないんですよ^^;
バッテリーもメディアも持ちませんから、ちょこちょこ撮りです^^;
なので撮り損ねた見所ポイントも沢山あります^^;
むぎともまた山に登った動画をupしますね^^
ご質問の件ですが、顔出ししてないことからもお分かりと思いますが、私のプライベートに関することは一切お答えしておりません^^;
ご了承くださいませ。
むぎや車中泊に関するご質問なら大歓迎です♪
ちなみにむぎはトイレのしつけはしてません。
なのでお散歩の時しかトイレはしません。私がそれでいいと思ったのでトイレのしつけはしませんでした^^;
それは良くないという方もいらっしゃいますが、各家庭の事情や教育方針などさまざまですからね。